「――弟なの」
緊迫したタクシーの中
ひざに視線を落としたまま小声で打ち明けると
斗馬くんは「は?」とあたしの顔をのぞきこんだ。
「藍、一人っ子じゃ……」
「苗字は違うし、血のつながりも姉弟じゃない、けど、とにかく弟なのっ……」
それ以上追及される前に、タクシーが目的地についた。
広大な敷地を誇る公園。
夜はわずかな街灯しかなく、物騒なイメージが付きまとう場所で、普段なら近づこうとも思わない。
でもこのときのあたしは、タクシーが止まるや否や、バッグも持たず飛び出した。
「藍っ!」
お金を払う斗馬くんを気にする余裕もなく、あたしは公園の中へと走った。