口の中に広がる、かすかな鉄の味。
その正体が、さっきの傷から滲むものだと気づいたとき
那智の指先はすでに、口内であたしの舌をなぞっていた。
全身に、強烈な甘い痺れが走った。
普段なら他人に触れられることのない場所。
触れられて初めて、そこがこんなにも熱かったことに気づく。
こじ開けられた唇の間から空気を吸いこんでも、頭の中は酸欠のようにクラクラして。
もう一度噛んでやろうとか
大声で叫んでやろうとか
そんなこと、微塵も考えなかった。
考えられなかった。
そっと那智の指が抜かれ、あたしの体がベッドの上で、くたりと脱力する。
つばを飲み込むと、ほんのりと那智の血の味がした。