先に出発するのはあたしの電車。
発車までのわずかな時間、あたしはドアの付近に乗って、ホームに立つ斗馬くんと言葉を交わした。
「新学期まであと数日あるし、それまでに会おうな。電話する」
その言葉を聞いたとたん、実感が湧いてきた。
あぁ、ホントにあたし、この人と結ばれたんだ……って。
「あたしからも電話するね」
微笑み合ったところで、発車のベルが鳴り響く。
「……あっ…、斗馬くん!」
閉まりかけたドアに向かって、小さく叫んだ。
「ボートの話……あたしなら斗馬くんを選ぶよ!」
――『もし、世界が海に沈むとして
2人乗りのボートがひとつだけあったら、藍は誰と乗る?』
完全に閉まったドアの向こうで、斗馬くんが嬉しそうに微笑む。
あたしは視界から消えていく彼に手を振った。