「もしかして、好きだった男の夢?」
驚いて顔を上げた。
そしてその動作が、肯定の意味を彼に伝えてしまった。
斗馬くんはあたしの手をおでこから退かすと、
「あ、大丈夫だ、シワ消えてる」
と、優しく眉間をなでてくれた。
「斗馬くん……」
やっぱり、本心では那智のこと気にしていたよね?
斗馬くんだもん。
あたしのグダグダの心なんか、きっとお見通しだったはず。
「藍」
斗馬くんは両手で、あたしの両手をきゅっと握った。
「俺は、藍がその男のこと話してくれても話さなくても、どっちでもいい。
でももし隠してることで、藍がしんどい思いをするんだったら、話してほしい」
「……」
訪れた沈黙を、波の音が埋めていく。