「お~い。無視か?」
ベランダから身を乗り出した斗馬くんが、誰かに話しかけている。
よく見ると相手は、猫だ。
となりのベランダになぜか三毛猫がちょこんと座り、話しかける斗馬くんを冷たくスルーしていた。
「あっ」
ついにそっぽを向いて逃げてしまう猫。
完全にフラれた斗馬くんに、あたしはプッと笑った。
「あ、藍。起きた?」
気づいた彼がふり返る。
「うん。猫、かわいいね」
「どうやってベランダに上がったんだろうな。2階なのにすげぇよなぁ」
斗馬くんは屈託ない瞳をベランダからあたしに移し、そして、首をかしげた。
「嫌な夢でも見たか?」
「……ううん。なんで?」
「眉間のシワ」
あたしは反射的におでこを手で隠す。