「別に……大事に持ってたわけじゃないし」


「へぇー」



窓からの風になびかせるように、ひらりと画用紙を高く持ちあげる那智。


電気を消した薄闇の中で、それはどこか魔術的な動作に見えた。



「その、たまたま、机の中に入れっぱなしだっただけで……」


「あ、そ」


不敵につり上がる那智の口角。

あたしの心の内なんて、たぶん全部、見透かされてる。



「じゃ、捨てるか」


「え?」



那智の腕が窓の外に伸びた。


どうせ本気で捨てるつもりはない。そうわかっているのに、あたしはとっさに窓に駆け寄った。



「返してってば!」



那智の手をつかんで止めるつもりが、逆に腕をつかまれる。


勢いをつけて引き寄せられ、パイプベッドが悲鳴のような音を上げた。


気づけば、紺色のシーツと、那智の体の間にいた。