泳ぎが苦手なあたしは、浮き輪が手離せない。
そんなあたしに斗馬くんが、ゴムボートを得意げに出して見せた。
「どうしたの、それ?」
「親戚に借りたんだ」
さっそく空気を入れてふくらませ、沖に向けて出発。
ボートは2人乗り用だから、向かい合って乗ると距離が近かった。
波で揺れる斗馬くんの向こうに、絵ハガキみたいな夏の空。
……不思議だな。
あたし、今
地元から遠く離れた海で
斗馬くんと一緒にいるんだ……
「俺も乗せてくれよーっ」
いつの間にそばに来たのか、海中からいきなり湯川くんが現われ、ボートのへりに手をかけた。
「断る。定員オーバー」
斗馬くんが湯川くんの体を押すと、派手な水しぶきを上げて再び海へドボン。
それを見て、子どもみたいに大笑いする斗馬くん。