「ねぇ、違うの。那智」


何が“違う”のか、自分でもよくわからないけれど。


「お願い。返してよ」


おでこをドアに押し当て、ため息のような声で懇願していると

やっと中から声が響いた。



「鍵、開いてる」



たったその一言。



……あたしの手で、この扉を開けろということ?


那智が住み始めてからは、一度も入ったことがなかった部屋。

入ってはいけないと自分に言い聞かせていた、厚い壁の向こう。



あたしは冷たいドアノブに手をかけて、そっと扉を押した。



「――…」



ぱたぱたと、カーテンが風に揺れていた。


月明かりが注ぐベッドの上で、足を組んで座る那智の横顔は

息をのむほどにキレイだった。



「まだ持ってたんや。こんな絵」