「先月たまたま本屋の事務所で、藍の履歴書を見つけたんだ。
興味本位で見てみたら、家族構成の欄が空白だったから。
でも藍は隠したがってる感じだったし。知らないふりした方がいいと思って……」
実は知られていたという事に、多少はショックを受けている。
でもそれ以上に、言葉にできない温かいものが、あたしの胸にこみ上げていた。
この人は本当に、あたしのことを想ってくれているんだ。
何も知らないふりをして
いつもあたしを笑わせてくれて
そして、そんな彼に
あたしは――…
「……斗馬くん…っ」
頬に突然伝った温かいものは、涙だった。
斗馬くんはギョッとして、あわててあたしの目元をぬぐった。
「ごめん、俺、泣かせてばっかりだ」
「ううんっ、違う」
この涙は、今までとは全然違う。