斗馬くんが目を見張った。



「……呼び捨て……?」


「あっ、でも斗馬くんが嫌なら、他の呼び方でも――」


「嫌なわけねぇじゃん」



逃げ腰になりかけたところを、強い声に引きとめられる。


そして彼は、自分を落ち着かせるように咳ばらいして、背筋を伸ばした。



「じゃあ……お言葉に甘えて。
これからは“藍”って呼ばせていただきます」


ペコリ、とお辞儀する斗馬くん。



「あっ、はい、こちらこそ」


つられてペコリ、のあたし。


何が“こちらこそ”なんだろう。

奇妙なやり取りに、プッと斗馬くんが笑い、あたしも笑ってしまった。


……どうしてあたし、この人の前ではこんなに笑えるのかな。



「お、いたいた。桃崎さん」


休憩室の扉が開き、入って来たのはホテルマネージャーだった。