咳きこむ声に気づいた斗馬くんが目を覚まし、


「……わっ…も、桃崎さんっ」


ガタン!とイスから立ち上がる。



「俺、もしかして寝言……っ」


「……」


「……聞いた?」



何も聞いてない、とシラを切ればいいんだけど、あたしも焦ってごまかせなくて。



「う、うん……“アイちゃん”って、聞こえた……」



ありのまま答えると、斗馬くんは赤い顔を片手で覆って、ため息を吐いた。



「あぁぁ~……ごめん。俺、調子乗って下の名前で呼んじまった。
夢の中だけだから、許して」



全身で反省を見せる斗馬くん。



……いいのに。

全然、かまわないのに。


たしかにビックリしたけど、嫌な気持ちにはならなかったんだ。



「……あの。夢の外でも
“藍”で、いいよ?」