「何や、これ?」
「ちょっ……那智!」
絵が飛ばされなくて安心したのも束の間。
那智はあたしの方をチラリと見ると、絵を持ったまま、部屋に姿を隠してしまった。
「何すんのっ、返してよ」
身を乗り出して抗議するけど返事はない。
窓の外にベランダはなく、これ以上どうすることもできない。
嫌だ……。
あんな昔の絵、それもただのデッサンを、ずっと大事に持っていたなんてバレたくなかった。
いきなりのことに動転しながらも、あたしは廊下に出た。
返してもらわなきゃ。
そして、何か言い訳しなきゃ。
「那智……」
那智の部屋のドアに向かって、呼びかける。
少し離れたリビングからは、テレビの音と大人ふたりの話し声が聞こえていた。