「じゃあ、放課後までがチャンスか」
「でも周りに人がいるし」
盗み聞きするつもりはなかった、とは正直言えない。
あたしはしっかり聞き耳をたてていた。
あの子、斗馬くんのこと好きなんだ。
モテるタイプなのはわかるから驚かないけど、なぜか落ち着かない気持ちになる。
「あーあ、今日中に告白したかったのになぁ。
なんで、誕生日にまでバイトするんだろ」
え? と思わず言いそうになった。
今日って、斗馬くんの誕生日?
……そっか。
16歳、かぁ……。
「湯川~っ、パス!」
軽やかにコートの中を動き回る斗馬くん。
解放した扉のむこうに、揺れるひまわりの花壇が見える。
初夏の風が吹くこの季節は、斗馬くんによく似合う、と思った。