あたしは机の引き出しから取り出した一枚の絵を、ひざの上で広げた。
スケッチブックの紙に、鉛筆を走らせただけのデッサン。
だけどあたしにとっては、他のどれよりも大切な絵だ。
描いたのは、11歳の那智。
描かれたのは、12歳のあたし。
初めて会った夏の日の夜。
満月とホタルの、光の中で。
「あ……今日も満月じゃん」
揺れるカーテンの隙間にのぞく空を見て、あたしは立ち上がった。
右手に絵を持ったまま、窓から顔を出す。
夜空に貼りついたように、くっきりと円を描く月。
そのとき突然、隣の部屋の窓が開いた。
あたしはビックリして、思わず右手から絵を離してしまった。
「あっ……」
風が絵をさらったのと、隣の窓から手が伸びたのは、ほぼ同時だった。
ふわっと浮いた画用紙のはしを、那智の細い指がとらえた。