「那智……」
あたしは小さくつぶやくと、机の引出しに隠した灰皿でタバコを消し、ベッドに顔をうずめた。
大丈夫。
考えすぎだ、きっと。
一緒に住んでるあの人よりも、あたしの方が那智のそばにいる。
周囲はあたしを那智の彼女だと言っているし、那智もそれを否定しない。
この部屋に来てくれたことも、何度かある。
このベッドだって……ふたりで使ったことがあるんだから。
……あれは、昨年の秋だった。
あたしたちが恋人同士だと噂され始めたころ。
たった一度だけ、あたしは那智に抱かれた。
ほとんどあたしからお願いして、してもらったようなもの。
だけどあの優しいキスや、体温は
今でもあたしの心が折れそうなとき、支えてくれるたしかな記憶だ。