桃崎藍さん。
那智の姉になるはずだった人。
ふたりの親は入籍の直前、不運にも事故に巻き込まれこの世を去った。
残されたふたりは他に身寄りもなく、事実上の姉弟として、今も一緒に暮らし続けている。
――『藍さんは那智くんを、弟として見ているってことですか?』
一年前、あたしは藍さんにそう尋ねたことがあった。
――『うん。そうだよ』
藍さんの声には強い意思がこもっていた。
だから、そのときは安心できたんだ。
その後あたしは那智と急速に仲良くなり、那智の口から藍さんの名前を聞くことは、二度となかった。
なのに。
何だろう、この胸のつかえは。
不自然なほど離れたふたりの距離を、目に見えない糸がつないでいるような気がするのは、なぜだろう。