――『惚れた方の負けってことだ』
俺の足音に重なるように、湯川の言葉が頭で響く。
負け?
まんまと彼女に惚れてしまった俺は、やっぱり負けなのか?
夜風を切る俺の体から、かすかに彼女の残り香がただよった。
走っているうちに息が上がり、足がしびれてきたけれど
それでも俺は全力で疾走した。
負け……なんかじゃ、ねぇよ。
惚れた方の勝ちにすればいいんだろ?
――『勝て』
聞き飽きた親父の口ぐせが、なぜか今よみがえる。
俺は夜空の星を見上げながら
“勝ってやる”
生まれて初めて
心からそう思った。
――Toma.Tanabe