手を伸ばしたのは無意識。


俺が、受けとめてあげたい。

たぶんその一心だった。



両腕が彼女を包み込み


首筋にやわらかい髪を感じ


結果的に気がつけば、彼女を抱きしめていた。



ふたつの心臓の音が、競うように速くなる。


見た目以上に細い体は、抵抗すらできないほど硬直し、俺を怖がっているように思えた。




「……ごめん」



謝罪の言葉を口にした瞬間

いや、違う、と思った。


違うんだ、全然。


俺が伝えたい言葉は、“ごめん”なんかじゃなくて――




「……桃崎さんが好きだ」






ちゃんと聞こえただろうか。


ちゃんと届いただろうか。



それを確認する余裕もなく、俺はそっと腕を解くと、その場を走り去った。