なぜ泣いているのか、まったくわからなかった。
だって本当に突然で
本人もその涙に驚いたように、しばらく頬を拭うのも忘れていたのだから。
「桃崎さん?」
名前を呼んでも、顔を上げてくれない。
「俺、何か嫌なこと言った?」
うつむいたまま、ぶんぶんと激しく首を横に振る。
「斗馬くんの、せいじゃ……」
……じゃあ、なんで?
「あたし、帰るね……っ」
逃げ出すように彼女は突然立ち上がった。
俺もつられて立つと、目の前で彼女の細すぎる肩が、今にも崩れ落ちそうに見えた。
そう……このままどこまでも
彼女が、落ちていきそうに見えたんだ。