俺は耳をすます。
声は若い男のもので、言い争っているというよりは、片方が一方的に怒鳴っている感じだ。
が、直後に自転車が倒れるような音が聞こえ、怒鳴り声は消えた。
なんだ。ただのケンカか。
納得したと同時に、俺は彼女のことが心配になった。
もしかしたらこの辺りは、案外物騒なのかもしれない。
そうじゃなくても、女の子が夜道をひとりで歩くのは危険だろう。
様子を見に行ってみよう。
そう思い、彼女の家の方角に足を進めたときだった。
駐輪場の方からヒュッと黒い影が飛び出し、俺の左肩にぶつかった。
「――…っ」
衝撃でわずかによろけた俺は、足を踏ん張って姿勢を立て直し、ぶつかった影の正体に目をやる。
そして、息をのんだ。
……闇の中の黒猫のような、鋭い眼光。
一瞬、人間であることを疑うくらいの、美貌の少年。