彼女の顔を思い浮かべたせいか、自然とペダルをこぐ足がゆっくりになり、俺は何げなく空を見上げる。


そして。



「う……わっ」


思わず感嘆の声をもらした。


漆黒の空に散らばった星。


梅雨が近づき曇りがちになった最近じゃ、めずらしいくらいの星空だ。


急激に俺のテンションが上がった。



そして、ついさっき読んだ物語のフレーズが、頭をよぎった。



“人間の瞳は美しい景色を――”



たまたまこのタイミングで、キレイな星空を見た。

それだけのこと。


だけどこのタイミングは、俺の背中を押すには十分だった。


俺はほとんど考えなしに、電車に飛び乗った。




降りたのは、彼女が住む町の駅。


携帯のアドレス帳の、最近登録したばかりの番号に電話をかける。



「――…あのさ。今日、星がすげぇキレイなんだ」