勝てない人生なんか意味はない。

そんなもの犬に食わせてしまえ。



これは俺がランドセル背負ったガキの時分から、親父に言い聞かされてきた言葉。



会社経営者である親父は、長男の俺に対してシビアな人だった。


“勝て”


その言葉は“おはよう”や“ただいま”と同じくらい、頻繁に聞かされ続けてきたもの。



でも、俺は考える。

勝つってそんなに大事なことか?


そこまでガツガツしなくても、毎日楽しくそれなりに。


まわりと調子を合わせて“引き分け”の人生を歩むのも、悪くないって思うんだけど。






「斗馬さぁー」


「ん?」



バイトの更衣室でエプロンを着けながら、湯川が言った。



「最近、姫とやたら仲よくね?」