「……早く行けよ。さっきの電話の相手、待たせてるんやろ?」 「……」 那智はあたしの手をシャツから離させて それからほんの少し、大人びた顔で微笑んでみせた。 あぁ……そうか。 本当にもう、何ひとつ 話し合うことも伝えることも 残っていないんだね。 ――『もう、解放して』 別れの日、あたしが口にした あの残酷な言葉は 現実のものになって ふたりを繋ぐ鎖は もう存在しないのに いつまでもあたしだけが 立ち止まっていたんだ。 何もない 自由な世界で。 ひとりぼっちで――…