どうして、と最初に思った。
どうして今ここに、那智がいるの、と。
冷静に考えれば、“どうして”も何もない。
あたしが那智に「今日は帰ってくるように」と、置手紙で頼んだのだから。
なのに、すっかり忘れて
たとえ一瞬でも、那智の存在を忘れ去って……
――『すぐに行くから、待ってて』
……きっと聞かれた。
あたしの中に芽生えた変化を、那智に見られてしまった。
「出かけるんか」
「……」
「ほんだら俺も出るわ。法事の相談は今度でええやろ。ちゅーか、そっちで勝手に進めてくれたらええし」
那智が背中を向けて歩きだす。