バイトを終えて帰ると、アパートの中は真っ暗だった。
那智、まだ帰ってないのか……。
ホッとしたような、そうでもないような、複雑な気持ち。
着替えをすませ、しばらくぼんやりしていると、携帯が鳴った。
表示された名前は、斗馬くんだ。
「……もしもし」
『わかった!!』
「え?」
主語も何もない、いきなりの言葉にビックリしていると。
『さっきの本のタイトル! あのあと気になってパソコンで調べたんだ』
「え? え?」
『てか短編だから一気に読んだ』
「えっ? 読んだの?」
『うん。さっき買った』
「……」
何という行動力。
ポカンとするあたしの耳に、電話越しの、車のクラクションの音が届いた。
「斗馬くん……もしかして今、外にいる?」