「あ…あの……」


なぜ、その本を? とたずねるのは、バカげた質問だろう。

ただの偶然に決ってるのだから。


だけど突然のことに、あたしは混乱していた。



「どうかしましたか?」



様子を変だと思った斗馬くんが、さっと間に入ってくれた。



「あ…お客様が……タイトルの分からない本を……」



ろくな説明になっていないあたしの言葉を斗馬くんは理解してくれたらしく、てきぱきと対応してくれる。


結局、著者名も出版社もわからず、男性客は「あきらめます」と穏やかに微笑んで帰って行った。





「さっきの人、知り合い?」


自動ドアを出て行く男性客の背中を見ながら、斗馬くんが言った。



「え? ううん……どうして?」


「桃崎さん、ちょっと変だったから」