『那智の瞳の底には、キレイな風景がいっぱい詰まってるんだよ』 なつかしい夢を見た。 すべてが始まったあの夜の夢。 風に運ばれてくる潮の匂いと 夜空に浮かぶ満月の光。 あたしはあの夜と同じように、那智の瞳をのぞきこむ。 だけどそこに映ったあたしは もう、12歳の少女じゃなかった。 なぜあんな夢を見たのか。 目が覚めたあたしは、カレンダーを見て納得した。 もうすぐ6月―― お父さんたちが死んで、一年が経とうとしている。