那智は冷蔵庫に手をついたまま、ふり返らずに笑う。
「情報早っ。井上公造か、お前」
「聞く気がなくても、勝手に噂が流れてくるんだよ。
……今日の女の子、泣いてたらしいじゃん」
「んー? あぁ、そうやな」
まったく悪びれる様子のない那智。
あたしが怒ることじゃないけれど。
全然、怒る必要ないんだけど。
なんとなくモヤモヤして、学ランの背中をにらんだ。
「泣かすような、ひどい断り方したの?」
「全然。あっちがお前の話を出してきたから、ハッキリ言うただけや」
「え?」
あたしの話?
冷蔵庫をパタンと閉めて、那智がふり返った。
「“藍さんみたいな美人と住んでたら、あたしなんてブスに見えるだろうけど”ってよ。
“分かってんなら告白してくんな”って答えたら、泣きよった」
「……」
鬼だ、こいつ。