「おぉ~っ、桃崎さん!」
近くを通る車のライトが、彼の笑顔を浮かび上がらせる。
「……田辺、くん」
「じゃなくて斗馬だろー」
「あ、うん……」
なんでこんな所で会うんだろう。
彼も家に帰ったはずなのに。
「さっき店の前通ったら副店に呼び止められたんだ。ホラこれ、桃崎さんの携帯じゃね?」
「あ……」
斗馬くんが差し出したのは、まちがいなくあたしの携帯だった。
「明日学校で会ったら渡しといてって言われたんだけど、なくして困ってるかもしんねぇし」
「それで、わざわざ持ってきてくれたの?」
「うん」
当然のようにうなずく彼に、あたしは言葉が出なくなってしまう。
別にいいのに。
こんな、誰からも鳴らない、飾りモノみたいな携帯……。