何を今さら動揺することがある?
あの子が那智を好きなのは、前からわかっていたこと。
“弟”の恋愛に首をつっこむ権利はないって
頭では理解しているはずなのに。
――『お前は、俺だけ見とけよ』
あんなに強く求め合った那智が
あっさり他の女の子にいっちゃうなんて
納得する心の準備、全然できていなかった。
あたしって人間は本物のアホだ。
まさか那智がこれからも自分だけを想ってくれる、なんて
メルヘンな期待でも抱いてた?
自分から別れを告げたくせに
どこまでもムシのよすぎる話。
アホすぎて、笑うこともできないってば……。
行くあてもなく、とりあえず駅の方に向かっていると
思いもよらない人が前から歩いてきた。