アパートに帰ると、玄関に数人分の靴が脱ぎ散らかしてあった。


奥の那智の部屋から、男の子たちの笑い声が聞こえてきた。



――『門限が厳しいから』



何が、門限だよ

「おかえり」と言ってくれる人もいないのに、見栄っぱりなあたし。

嘘をつくならもっとマシな嘘つけっつーの……。



あたしはお風呂に直行して、疲れた体を湯船に沈めた。


かすかに聞こえてくる那智たちの話し声をなるべく耳に入れないよう、強めのシャワーを頭からかぶった。



……今はもう、このアパートには絵の具の匂いがしない。


代わりに漂うのはタバコとお酒と、入り混じった香水の匂い。


女の子を連れこんでいる気配がないのが幸いだけど、たまに那智は帰ってこない日があるから、そんなときはどこに泊まっているのかわからない。


というかそもそも、あたしにはもう関係がないのだけど。