ガサッ…!と、かわいた音がした。
地面に這いつくばったあたしは、両手の中に紙の感触をしっかりつかんだ。
「……よかっ…た」
息を切らしながら、安堵の声をもらす。
「よかった……那智……」
やっぱり、捨てたくなんかない。
この絵はあたしにとって
たったひとつの確かな物。
疑うことも知らずに那智と惹かれ合った
あのまぶしい時間を証明してくれる、ただひとつの物なの。
あたしは地面に座りこんだまま、両手をそっと開いた。
丸く握りつぶされた絵を、ゆっくりと、目の前で広げた。
そして
あたしが見たものは――
「……」
あの絵じゃなかった。
まったく関係のない、どこかの子どもが描いた落書きだった。