卒業式の余韻が、彼を少し大胆にしたのかもしれない。
熊野くんは握った手を自分の方に引き、顔を近づけた。
キスされる。冷静に、でもボンヤリと、そう思った。
思ったときにはもう唇が触れていた。
「……」
後ろによろけたあたしの足が自転車に当たり、ガシャン!と音を立てて倒れる。
その音で熊野くんがハッとした。
「ごめん。俺、いきなりこんなことして最低だな」
「……」
「桃崎さん?」
「……」
「あの…」
「……帰るね」
「桃崎さんっ」
「ごめんなさい」
倒れた自転車を起こし、あたしはその場を去った。
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