取り出したのは一枚の絵。
初めて会った夏の夜、月明かりの下で那智が描いてくれた、あたしの絵。
――『那智の瞳の底には、キレイな風景がいっぱい詰まってるんだよ、きっと』
その瞳に閉じこめられたいと、あのとき願ってしまったんだ。
ずっと大事に持ってきた絵を、あたしは手の中でグシャリと握りつぶす。
そして
ゴミ捨て場に落とした。
卒業式は、ほぼリハーサル通りに進んだ。
式の最後にいきなりクラスメイト全員が立ち上がり、
「ありがとうございました!」
と保護者たちに頭を下げるというサプライズがあったけど、
あたしは他人事のように、イスに座ったままそれをながめた。