捕らわれた視線。
瞬間、すべての音が消えた。
セミの鳴き声も。
木々のざわめきも。
海からの汽笛も。
何もかもが音をなくし、自分たち以外の世界が止まった。
『……お前、この辺で見ぃひん顔やな』
見下ろしてくる眼光に、ぞくりと戦慄が走る。
獣の眼だ、と思った。
深い森の奥でひっそりと生きる孤高の聖獣。
獲物を見つければ一瞬で
痛みすら感じさせず命を奪いそうな――
思わず上体を退くと、石畳のひんやりした感触が腕に伝わった。
詰まる距離。
ドクッ、ドクッ、と心臓が暴れだす。
しだいに目が慣れると、彼の輪郭がはっきりと見えてきた。
漆黒に光る長いまつげ。
完璧な曲線を描く唇。
そして、
あたしの方に伸びてくる左手。