那智が料理なんて聞いたことない。
キャベツとレタスの違いもわからないくせに。
あたしは台所に立つ那智の背中を、不安な気持ちでながめた。
「えーっと…ネギを小口切りにして…って、小口切りって何やねん」
レシピを見ながらブツブツ言う那智。
……気、使ってくれてるのかな。
那智のことだからきっと、あたしの様子が変なのを見抜いてる。
元気づけようとしてくれてるんだ。
――『藍ちゃん』
一瞬、おばさんの声が聞こえた気がした。
あたしはあたりを見回し、自分たち以外に誰もいないことを確認する。
……当たり前じゃん。
いるわけがない。
再び那智の背中に視線を戻すと、なぜかそれに、おばさんの後ろ姿がダブって見えた。