吐き気がする。

立っていられなくて、膝から崩れ落ちそうになる。


だけどダメ。


ここでしゃがんでしまったら、きっともう立ち上がれない。


忘れるんだ。

早く、忘れて――…




「――藍。着いたぞ」


「え?」



気づけばいつの間にか家の玄関だった。


靴も脱がずに突っ立ったままのあたしに、那智が「早よ、上がれや」と言った。



「うん……」



廊下から見えるリビング。

あたしたちの、家。


胸がザワザワする。



「あ……那智、お腹すいたでしょ? 何か作るね」


「いや、ええよ」



台所に向かおうとしたあたしを、那智が止めた。



「たまには俺が作ったるわ」