木下さんは「そうだったわね」と言うと、急に目をうるませた。
「亡くなったふたりは、さぞかし無念だったでしょうね」
「え?」
「噂で聞いたんだけど、婚姻届がカバンに入っていたんでしょう?」
「……」
「たぶん、ふたりで提出しに行くところだったんじゃないかしら」
……やめて。
「本当に残念でしかたないわ。もっと早く入籍していれば、こんなことにならなかったのに……」
やめて……
それ以上言わないで。
「でもきっと今ごろ天国で
夫婦になっているわよね」
ちがう。
そんなわけがない。
ふたりはこの世で夫婦になりたかったはずだ。
それを、ジャマしたのは――。