「やっぱり。藍ちゃん、よね?」
「え……はい」
誰だろう。
声をかけてきた中年の女性に、あたしはぎこちなく頭を下げた。
「私、お父さんの同僚の木下です。お葬式にも行ったんだけど、覚えてないかな?」
「……」
たくさん人がいたから覚えてない。
だけどここは、ちゃんと挨拶をするべきだろう。
そう思うのに、あたしは声が出なかった。
“お父さん”
“お葬式”
心臓がバクバクと暴れだす。
「あ、こちらは弟さんよね」
「いえ。……籍は入ってなかったんで、正式な弟じゃないです」
話を振られた那智が、低い声で答えた。