布を裂く音。

思っていたよりも容易く、刃がキャンバスに食い込む。


ザクザクと。

何度も、何度も。


くり返し、傷をつけ、壊していく。



「……ッ」



徐々に強くなる力。

止まらなかった。


目の前のキャンバスは、見る間にズタズタになっていった。



「……――ッ…」



声にならない声で叫びながら、あたしは狂ったように切り刻んだ。



那智の姉になんかなりたくない。

なりたくなかった……!



どす黒い絶望がふくれあがり、息が詰まって、体が震えて、涙がこぼれ、絶叫をあげた。



いつのまにかキャンバスには、絵の具とは違う赤い筋ができていた。


あたしの血だ。


知らず知らずにあたしは刃の部分を握り、手のひらがザックリと切れていた。



「藍」



うしろから那智があたしを抱きしめ、傷ついた手を包み込んだ。