言葉もなく部屋を出ていく那智。
抜け殻のようにひとりで取り残されていると、那智が再び戻ってきた。
左手に、何か持っている。
それは細く鋭く光っていて
まるで那智の瞳みたいだと、あたしはぼんやり思った。
振り上げた那智の腕が、キャンバスの前で停止する。
ザクッ…と小気味いい音。
ダーツの矢のように刺さった、カッターの刃。
那智が腕を下に引くと、キャンバスは音をたてて裂けた。
そんな動作を、那智は、感情のない顔でくり返した。
「那…智……?」
立ち尽くすあたしの手を取る那智。
そして、カッターを今度はあたしに握らせる。
「……」
あたしは呆然としたまま、腕を振り上げた。