『藍ちゃん、のど渇いたやろぉ?
おばさん特製の梅ジュース作ったから、うち行って飲もうな』
おばさんはそう言うと、あたしの荷物をひょいを持ち上げ、駐車場の方に歩きだした。
その後ろをついていく、あたしとお父さん。
が、港の待合室の前を通りかかったとき。
足の裏が地面に吸いついたように、あたしは立ち止まった。
『藍? どうした?』
『……あの絵』
『絵?』
お父さんとおばさんが、あたしの視線を追う。
ガラス窓の向こうに見える、せまい待合室。
2列に並んだ緑色の質素なベンチ。
天井で回る扇風機。
その奥の壁に飾られていた、
一枚の絵。
『あぁ、アレね、那智の絵よ』
おばさんが言った。