あたりを見回したけど、相変わらず真っ暗な闇が広がるだけだ。


じっと耳をすます。


雨と波の音の合間に、遠くから声が聞こえてきた。



「こんな所に女がいんのかよ」


「マジだって。さっき車から見えたもん」



何……?


那智じゃない男の人の声。それも数人で、こちらに近づいてきている。



「つーかその女、何?」


「家出しかねぇだろ。ベンチで寝てんだから」


「俺らが保護してやんなきゃ、ってか?」



ギャハハハ、と下品な笑い声が数メートル先で響き、あたしはやっと状況を理解した。


寒さとは違う震えが、あたしを襲う。



「あった、あった。あのベンチ」