ヒロトという男の子が教室から出たのを見届けると、那智はあたしの方に向き直った。
そして、濡れて頬にはりついたあたしの髪を、指ではがした。
「風邪ひいても知らんぞ」
「大丈夫。あたし強いし」
「紫の唇で言われても説得力ないなぁ」
寒くて震える唇を、那智の指がなでていく。
その体温を欲するように微かに口を開くと、舌先に爪が触れた。
ぴくんと肩を震わしたあたしに、那智は一瞬指を止め、試すような目で見下ろしてくる。
……もっと。と目でこたえるあたし。
雨が傘を打つ音が、なぜか扇情的に聴こえた。
「あ、あの」
ためらうように声をかけてきたのは、さっきのヒロトという男の子だった。
「おぉ、サンキュー」
那智はスッと手を離し、気まずそうに立っていたヒロト君から傘を受け取る。