そして、あたしは思い出した。

昨夜の言葉を。



――『那智のこと好きすぎて、おかしくなりそう』


――『なれよ』



ふたりでおかしくなりたいと、確かに自分が願ったことを。



「……」


あたしの手首を押さえていた力が、スッとゆるむ。


「那智……」


あたしは解放された両腕を、那智の方に伸ばした。




「――はい。えぇ、ふたりで海にいた所を、私が見つけました。……はい、今は学校に――」




ドアの向こうで電話している先生の声は、口の中で響く水音にかき消される。



初めて、自分からキスをした。


これがあたしの選択だった。