物心ついたときから、うちは父子家庭。
母は亡くなり、祖父母もいない。
部屋数だけはムダに多いボロアパートで、お父さんが唯一の身内だった。
だから、いまいちピンとこなかったんだ。
「親戚がいる」なんて急に聞かされても。
そうして小学校最後の夏休み。
あたしたち親子は、電車と船を乗り継ぎ、
A県の沖合に浮かぶ“星名島”を訪れた。
『はじめまして、藍ちゃん。
遠いから疲れたやろぉ?』
港で迎えてくれたのは、化粧っけのない、だけど華やかな雰囲気の女性だった。
耳慣れない関西弁に、あたしは少しとまどいを覚えた。