「那智……やめて」


聞き取れないほど弱々しい訴えは、けれど那智にはしっかり届いたらしく。


無表情で、あたしの方にふり返る。



「やめてええんか?」



当たり前だ。

そもそも声をかけられただけで、あたしには何の被害もない。


そう思ったけどとにかく那智を止めたくて、あたしは必死に何度もうなずいた。


足元でうずくまっていた男の子がフラフラと立ち上がり、もうひとりのずぶ濡れの男の子を連れて逃げ去っていく。


そんな彼らにはもう何の興味もないように、那智はチラリとも視線を動かさず、あたしをまっすぐ見つめた。



「何ちゅー顔してんねん、お前」

「……え?」

「真っ青」



那智は眉を下げて微笑み、あたしの頬に手を伸ばしてくる。