着いた先は海。
季節はずれの海水浴場だ。
「うわー、なつかしいー」
あたしは自転車に乗ったまま、道路から海を見下ろして言った。
「なつかしい?」
「うん。子どもの頃ね、毎年ここに泳ぎに来たんだ」
お父さんと一緒に。そんな言葉が出かかったけれど、とっさに飲み込んだ。
眼下に広がる海には人影がなく、砂に曲線を描くような足跡が残っているだけ。
しばらく言葉もなく眺めていると、那智は突然ペダルをこぎ、砂浜に続く坂道を自転車のまま下り始めた。
「えっ、危ないよっ」
「大丈夫や」
「転ぶって!」
「藍のヘタレー」
那智は笑いながら、ブレーキもかけずに一気に坂を下る。
あたしは那智の背中にしがみついて、悲鳴を上げた。