人通りの少ない早朝の通学路。
タイヤが地面を擦る音が、規則的に響いている。
あたしは目の前の那智の背中に、おでこを押し当てながら、昨夜の言葉を思い出した。
――『あんたにオカンをやるから。藍は、俺にくれよ』
嬉しかった。
すごく嬉しかった。
そしてあの言葉にショックを受けるお父さんたちを見ながら、嬉しくて震えている自分が、怖かった。
「……ねぇ。どっか行きたいね」
「あ?」
那智が自転車をこぎながら、軽くこちらをふり返った。
「ほら、那智はしょっちゅう授業サボってるじゃん? うらやましいな~って実は思ってたんだ」
明るくふるまってそう言うと
那智はフッと笑い、前を向いた。
「ほんだら、今日はサボるか」
那智はくるりとハンドルを切って方向を変え、行き先も言わずにどこかに向かった。