「ビッ…クリしたぁ……」
一部始終を見ていた例の女子が、はあーっと息を長く吐き出した。
そして、少し興奮気味にあたしの方を向く。
「普通さぁ、あの高さから飛びおりる!? 弟くん、羽でも生えてんじゃない!?」
……もし本当に、那智の背中に羽が生えていたとしても、あたしはたいして驚かないと思う。
ズキン。ズキン。心臓がうずく。
那智にだけ反応して暴れる
制御不能な、この衝動。
「……」
「どうかした? 桃崎さん?」
うつむいていた所を彼女にのぞきこまれ、あたしは首をふった。
「ううん、平気」
「でも、顔がすごい赤いよ?
ていうか桃崎さん――」
なんかちょっと、色っぽい顔になってる。
冗談めかしてそう言われ、何も言葉を返せなかった。
……言えるわけが、ない。
もうすぐ弟になる人に
触れたくて、触れられたくて
仕方がないなんて。
そんなこと、口が裂けても
言っちゃいけない。